ドラマ『インフォーマ』が2年の沈黙を破り、『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』として帰ってきた

沖田臥竜のINFORMA奇譚 EPISODE1

沖田臥竜氏の同名小説をドラマ化し、各所からアツい支持を得た『インフォーマ』(カンテレ)の続編が、11月7日からABEMAで放送開始されることが発表された。タイトルは『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』(原作『インフォーマ2  ヒット・アンド・アウェイ』サイゾー文芸)。
舞台をタイ・バンコクまで広げ、さらなる豪華キャストが加わるなど、スケールアップしたあらたな『インフォーマ』はどのようにして誕生してきたのか。そして今後、どんな展開が待っているのか。原作・監修を務めた沖田氏が、作者ならではの視点で舞台裏を語り尽くす短期集中連載コラムがスタートする。

あらかじめ決められた続編への道

 激しく燃えた夏が過ぎ去り、すっかり秋になった。昼間の強い陽射しは、夏の落とし物といったところだろうか。日々を忙殺されている中で、ふと思いだし、笑みが溢れることがある。みんな元気でやっているだろうか。ジョニー(私との仕事も多い、映像制作会社プロデューサーのニックネームである)も、こうして見上げている空から、きっと見守ってくれて……すまない。ジョニーは元気であった。すまん、すまんである。

 無事にこうして10月3日を迎えることができた。記憶力のエキスパートである私くらいしか誰も覚えていないだろうが、10月3日といえば、2021年のこの日、朝日放送でドラマ『ムショぼけ』が放送開始されたのである。

 あれから3年。今度は『インフォーマ』の続編をやるために、我々はABEMAにやって来たのだ。10月3日は再び大切な1日として私の記憶に刻み込まれることだろう。

プロジェクトのスタートは去年2月。前作『インフォーマ』がNetflixの人気ドラマランキング2位になったときから、続編制作は秘密裡に動き出していた。当たり前ではないか。私たち「インフォーマ」が動き出すときには、コトンっという音すらも立てないのだ。ネットの流出なんて間違っても起こらない。なぜだかわかるだろうか。それがインフォーマという作品に携わってくれる一人ひとりが持つ力なのだ。

 続編の話が出たときには、次の舞台はバンコクにしようということは話し合っていて、去年5月には、物語を生み出すためのヒントを得るために私はタイに渡り、バンコクの街並みを肌で感じた。

 ここで何ができるか。目で見て、耳で聞いて、肌で感じ、メモを取り、写真を撮ることで、私の思考はそのときすでに覚醒していたのだ。そこから数カ月後の去年夏には、ABEMAで『インフォーマ』の続編をやることが決定していた。

「いつもスタートは、2人でのロケハンから始まりますもんね~」

呑気なものである。機内食を満足そうにモグモグ食べながら、そんな戯けたことをいうプロデューサーのジョニーと、2度目のタイに行ったのは去年の9月のことだった。

今回の一コマ「バンコクでも仕事熱心?のジョニー」

 ドラマ『ムショぼけ』や『インフォーマ』シーズン1もそうだっただが、藤井道人監督と企画を練り、そこからまずは私が物語の舞台となる場所に訪れ、ドラマ化決定後、ジョニーとロケハンに回るということは定番化している。それなのにジョニーは勝手に「2人でロケハンに回ったのがスタート」と、自分の中で美化されたストーリーをこちらに押し付け、歴史を塗り替えようとしてくるのもいつものことであった。ジョニーのように、ある意味そうした能天気さを持てる人のほうが、人生は幸せだったりするのかもしれない。

 対して、私みたいに記憶力のエキスパートになってしまうと、能天気に「忘れる」ということができないので、事実に反する他人の言葉が気になり、疲れてしまって仕方がないのだ。

「サウナ、気持ちいいっすね~。ゲンさん(『ムショぼけ』『インフォーマ』を担当した逢坂元監督)サウナ好きだから喜ぶだろうな~。あれ? 沖田さんもう上がっちゃうんすか~?」

 異国の地のサウナに入り、そんな軽口を叩ける余裕なんて私には間違ってもない。いつものように制作現場で展開される、ジョニーとのサイドストーリーの幕もそうして上がったのだった。

2年前の自分自身には負けられない

去年5月、バンコクから帰国したときには、映像化に向けて、続編の叩き、いわゆるプロットをもう少し具現化させたものを書き始めていた。そして秋にはそれを脚本家チームに託し、私はそこから小説に起こし、暮れにはサイゾー文芸部から『インフォーマⅡ Hit and Away』として出版していたのだ。

 明けて今年5月、撮影がスタート。バンコクから熱く燃える夏が始まっていったのだった。

 映像だろうが小説だろうが、新たな物語を生み出すときに、超えなければならないものは何か。それは過去の自分だと私は考えている。過去の自分を超えなければ、作品としても人間としても、そこに成長があるはずがないと思っている。それを成し遂げるために、当たり前に横たわるプレッシャーや労力なんてものを、私は苦だと認識したことがない。

 何だったら一生、今みたいに「忙しい」ことを自慢しながら生きていきたい。仕事で忙しいなんて、男の誉れではないか。それに私は、人を興奮させたり感動させたりする仕事をしているのだ。苦悩や葛藤くらいしなくては、罰だって当たるだろう。

 物語を映像化するということは、そこに一つの仕事場を作り出すということになる。多くの人たちがさまざまな技術や経験を持ち寄って、ひとつのゴールに向かう。その大きな力の前に、個人的な苦悩や葛藤なんて太刀打ちできるはずもない。

 私はその仕事場で一生懸命に汗を流す、みんなの姿が純粋に好きだ。物語の作り手として、日常的に好きだの愛してるだのと白々しい言葉を口にすることは間違ってもないが、やはり一生懸命に仕事しているみんなの姿を見るのは大好きだ。無論、見ているだけでは話にならないので、私は私で仕事をしているし、ジョニーですら仕事をしているはずだ……。

 前作『インフォーマ』シーズン1の撮影現場が私にとって文化祭ならば、今回の『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』は、2024年の夏そのものだった。

 撮影現場には、ひと夏分のときめきも戸惑いも喜びも哀しみもすべてが凝縮されていた。負けていると思うか。2年前の自分自身に負けられると思うか。私はいつももっともっと先を見ているのだ。過去の自分に負けるくらいならば、私は筆を折っている。その理由をわかってもらえるだろうか? 過去の自分に負けるということは、怠慢な日常を送ってきたと思うからだ。頑張っていれば頑張っただけの成長が、作品にも人間としてもなくてはならないのだ。

 だいたいの作品で、シーズン2はコケることが多いだろう。それは知らず知らずのうちにシーズン化されたことにあぐらをかいてしまっているからであって、『インフォーマ』がそのジンクスに当てはまることはない。

 ジョニーが聞けば大笑いするかもしれないが、私はこう見えて謙虚である。そのため、どこかで自分自身を過小評価していたかもしれない。だがもう自分自身を評価しても良いだろう。ABEMAを舞台に最高な仲間たちと『インフォーマ』で歴史を塗り替えに来たのだ、と。

 撮影が終わり、編集作業が終われば、ジョニーと話すことはない。それもいつものことである。
 今頃、ジョニーの奴もくしゃみでもしているのではないかと思うと、クスッとまた笑みが溢れ出てくるのであった。

(文=沖田臥竜/作家)

ドラマ『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』
11月7日(木)23時より「ABEMA」にて放送スタート

週刊タイムズの記者・三島(佐野玲於)は、世間を騒がせている〈闇バイト殺人事件〉の黒幕を調べるために、編集長の命でタイ・バンコクへ飛ぶことに。そこで三島を待ち受けていた人物は……2年前の〈火だるま殺人事件〉で三島に地獄を味わわせた、“インフォーマ”の木原(桐谷健太)だった。木原に翻弄されながらも取材を進める三島。そして2人の前に、インフォーマを名乗る謎の男・鬼塚(池内博之)が立ちはだかる。木原と三島は、〈闇バイト殺人事件〉で盗み出された”謎のブツ”をめぐり、鬼塚・そして現地マフィアと壮大な情報戦に巻き込まれていく——。

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原作小説『インフォーマ2  ヒット・アンド・アウェイ』 
沖田臥竜・作/サイゾー文芸・刊/1400円+税
amazonなどネット書店、全国書店で発売中

この記事を書いた人

沖田 臥竜

作家・小説家・クリエイター・ドラマ『インフォーマ』シリーズの原作・監修者。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)がドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。