『インフォーマ』対談・沖田臥竜×桐谷健太…木原慶次郎というダークヒーローを生んだ男たち

沖田臥竜さん(左)と桐谷健太さん(右)

当サイト激オシのドラマ『インフォーマ』(関西テレビ)もいよいよ折返しに入り、物語はさらにヒートアップ。桐谷健太さん演じる木原と、森田剛さん演じる冴木の対立が激化し、解き明かされていく謎がある一方、さらに闇が拡大していくノワールな展開は健在。回を重ねるごとに「地上波ドラマの枠を超えている!」との声が高まる中、『インフォーマ』の原作・監修を務めた小説家の沖田臥竜さんと、主演の桐谷さんの対談が実現した。
木原慶次郎という、令和のダークヒーローを生み出した男とそれを演じた男。2人が語る『インフォーマ』のインサイド・ストーリーとは?

「情報屋って、パソコンいじっている系かと」

――まずは沖田さん、『インフォーマ』という作品が誕生した経緯を聞かせてください。

沖田 自分の仕事のひとつに、表に出ない情報を利害関係者も交えて、どうコントロールするかなんていうものがあって、それを「情報屋」などと呼ぶ人もいますが、そんな話を、今回、総監督を務めてくれた藤井道人監督に話していたんです。前回一緒に組んで作ったドラマ『ムショぼけ』(2021年)の撮影前の時でした。そしたら、藤井監督から「それを映像にしたら面白くないですか」と言ってきて、そこからスタートですよね。自分で「インフォーマ」というタイトル決めて、これやなっと思って、10話分の脚本のたたき台になる原稿は2週間ほどで一気に書き上げました。

桐谷 そうなんですね。僕には昨年の2月に、最初、藤井監督から直接連絡いただいて、「のちほど事務所とは話をしますが、夏のスケジュールはどうなっていますか?」と。藤井監督とは別のお仕事でご一緒していて、いろんな話もしていたので、監督とだったらぜひと返事をしました。ただ、そのときは、内容は聞いてなかったんです。「情報屋」って聞いたときにも、メガネ掛けてパソコンいじっている系かと(笑)。

沖田 ハッカーとか、アノニマスみたいな。

桐谷 そうです、そうです(笑)。で、台本読ませてもらったときに、関西弁で堂々と表にも出てきて、身体も張って……と、その設定にインパクトがあったんですよね。普通にいそうなお兄ちゃんが実はダークヒーローというのもワクワクしました。

沖田 リアリティという意味では、最初は「情報屋」という言葉のイメージを潰すところから始めました。権力にも敵にも見つからないように、陰に隠れてひそひそ仕事をしているような、情報屋の概念をまず潰して、自分自身がそうなんですが、情報という一つの資産をもとに堂々と各所と渡り合っていく。それはきちんとしたビジネスとしてお金になることもあれば、無償の人助けで終わることもある。自分の場合は、それによって人脈はどんどん広がっていって、会社を立ち上げられるだけの規模になったのは事実です。テレビ局や新聞社、出版社とのつながりもできて、それはもう、ひとつの集団として力を持っているだろうと。
 「ファブル」という殺し屋のチームが活躍する作品がありましたが、情報を操る人々を名付けるなら「インフォーマ」というチームかなと。殺し屋集団が社会を襲うなんてことは、現代の日本では実際はないじゃないですか。ただ、特定の勢力が情報を使って、人や企業の生殺与奪権を握ることは当たり前のようにあって、暴力だけが命に対する脅威でないということを感じていた中で生まれた作品です。
 『インフォーマ』はサスペンスであり、バイオレンスもありながら、その路線で派手にやればいいということではく、情報化社会におけるヒューマンを考えてもらいたい。藤井監督もそこは一緒だと思うんです。単なるサスペンスを俺らはやっていくんじゃないという力強さはあったなと。

越えたかった2つの作品

――そういう思いの中、沖田さんは、桐谷さんが木原役に決まったとき、原作者が持たれていたキャラクターのイメージと比較して、どういう感想を持たれましたか。

沖田 藤井監督からは、脚本のたたき台を書いてる最中に「桐谷さんはどうですか?」と言われとったんです。ご本人にまだ正式に打診する前のようだったけど、すごくピンと来ました。そこからは、当て書きですよね。桐谷さんが受けてくれようがくれまいが、桐谷さんがしゃべっているイメージでセリフを書きました。
 自分は、娯楽性の高い文芸をやる中で、映像化されることがあったら越えたいと思っていた作品があって、それは黒川博行の『破門』。主人公のヤクザ役を北村一輝さん、相棒のコンサルタント役を濱田岳さんのコンビでドラマ化されているんですけど、それを絶対越えたいなと。

桐谷 (日刊サイゾーに掲載されたコラムで)『インフォーマ』で越えたい作品が2つあると書いてらっしゃいましたが、そのひとつが『破門』なんですね。もうひとつはなんですか?

沖田 敵役の3人が印象的だったのが、韓国映画の『犯罪都市』。今回の森田剛さんたちが演じたヒールの3人組は、『犯罪都市』を越えようと思ってぶつけたんです。
 いつもは他の作家や作品なんて全然意識しないんだけど、小説家として活動を始めて出版業界の人と会うようになって、最初のほうに言われたのが「まだまだあなたは、黒川博行さんにはなれませんよ」という言葉だったんです。これには頭に来て(苦笑)、黒川さんは確かに自分も認めている作家の一人だけど、ヤクザや社会の裏側を扱うジャンルなら、経験と取材では負けていないという自負があった。それに、木原の相棒である三島を週刊誌記者にしたのも、自分の仕事と被るところがあるので勝手がよくわかる。この設定で戦えば、負けないだろうなと思ったんです。実際にドラマでも、三島役の佐野玲於さんと桐谷さんのバディが見事にハマってくれました。二人の動き、声、表情がすごく合っていたなと。

桐谷 そうなんですね。玲於とは初共演でしたが、確かにすごくしっくり来ていましたね。自分が、沖田さんが思い描いていた木原を演じられていたかはわかりませんが、元ヤクザということで、どんな喋り方をして、どんな声を出すんだろうとか、いろいろ思い描きつつも、深くは考えないようにして現場に臨みました。その場で見た景色や起こったことなどを、独特の感受性で受け止めて、行動するのが木原なんじゃないかと思って……うまく説明できないんですけど、もう現場に入ったらそのまま、木原になれた感覚は自分の中にはあったので。すごく役者冥利に尽きるというか。

――沖田さんからご覧になって、桐谷さんの元ヤクザとしての立ち振る舞いみたいなところはどうでしたか。

沖田 サラリーマンも10人おったら10人の個性があるように、ヤクザであっても警察であって一緒なんだけど、桐谷さんの演技はすごく絵になっていましたよね。動きも声も、すごく突き抜けられたというか、桐谷さんの中の、木原のような男臭いところがさらに目覚めたというのか。
 年末の歌番組に、すごいオーラを持った桐谷さんに似た男の人が出ているなと思ったら、本物の桐谷さんだった(笑)。撮影現場で何度も会っていたけど、藤井監督の現場で座長をやられて、さらにステップアップされたんやなっていう印象ですよね。

桐谷 ありがとうございます(笑)。

「日本で一番暑い夏にしましょう」という言葉

――今、座長という言葉も出ましたけども、今回は、連続ドラマ単独初主演。いわゆる座長ということで、ご自身で意識したことやプレッシャーなどはありましたか?

桐谷 本当にワクワクしながら楽しみにしていたので、座長だからとか気負ったところはなかったですね。主演だろうが脇役だろうが、どんな役も向かっていくだけ。沖田さんも、昨年7月下旬の撮影初日に「日本で一番暑い夏にしましょう」とおっしゃっていて、それはいいな、すげえな、みたいな感覚でした。
 いろんな役者さんがいて、それぞれの感覚があって、芝居に対していろんな向き合い方があると思うんですけど、自分の場合は、5歳の頃からこの世界に入りたくて、今はそれができていて充実しています。もちろん苦しい瞬間もありますが、それをまた楽しさに変えていくアイデアが生まれたり、他の役者さんと自分が予期せぬ化学反応を起こしたりと、特に『インフォーマ』の現場ではみんなが同じ方を向いて、ブワっとエネルギーが一体になっている感覚はありましたね。だから、プレッシャーというよりは、この作品、そしてこの役を味わい尽くそうという感覚はありました。で、撮影が終わってしばらくしてから、取材などで『インフォーマ』について聞かれとき、「自分が覚醒した作品」という言葉が出てきたんです。この言葉がいちばんしっくり来るなと。

沖田 いい表現ですよね。「覚醒」は。

――桐谷さんは、ある取材で「これマジで地上波で放送できるんですか?みたいな感じ」とも語っていました。

桐谷 実際には「放送できるんですか?」というより、「本当に放送するんだ、イエーイ」みたいな感覚ですよね。撮影しながらも「これ流しちゃんだ、すげー」みたいな。
 全身火だるまとか、殴り合いや銃撃とかのバイオレンス表現だけでなく、言葉で表しにくいんですけど、「今のテレビでやれるんだ」という、本当にこの言葉のまんまなんですよね。ストーリーもそうですし、映像のクオリティも映画的だし、民放地上波なのに攻めているし、突き抜けている。しかも、Netflixでもやってくれるんだ、と。

沖田 加えて言わせてもらえば、『インフォーマ』というのは、小説やコミックをほほ同時展開しています。ドラマ放送前に小説を発売し、ドラマ放送後には小学館からコミカライズもされる(小学館の電子コミックアプリ「マンガワン」から配信予定)。藤井監督と企画を立ててから、テレビ局や出版社に持ち込んだのは自分なんですが、『インフォーマ』という作品が骨太だからできたこと。芯がしっかりしているから、ドラマの脚本を作るときも、ドラマ用に「もう少し女性を出してください」とか藤井監督のリクエストに応えて手を入れたり、小説やコミックもそれぞれの媒体に合わせた調整をしたりしても、『インフォーマ』の世界観は崩れることはないんです。それぞれが情熱を注がれて作られている。

関西・尼崎談義

――ところで、木原は兵庫県尼崎市に潜んでいるという設定で、尼崎ロケもありました。尼崎は沖田さんの出身地でもあるんですが、大阪出身の桐谷さんにとって、尼崎にはどういうイメージがありましたか?

桐谷 子どもの頃は、競艇のCMをたくさん見ていたので、その印象です(笑)。大人になるまであまり行くことなかったですが、沖縄の方も多かったり、さまざまな人が集まっていたりして、パワーのある町だなと。第1話で木原が初登場する老舗の焼肉店なんて、ほかではなかなかないじゃないですか。木原はこういうところを根城にしている人間なんだということも伝わるし、初めていったのに懐かしさを感じる場所でしたね。

沖田 『ムショぼけ』のときも、尼崎で1人ロケハンから始めて、今回もそれを噛み締めながらやりました。始まるんだって闘志がみなぎるというか。そうした中でロケハンしていても、最後まで決まらなかったのが焼肉屋なんです。桐谷さんに言う通り、木原と三島が出会う重要なシーンなので最後の最後まで藤井監督がこだわってくれました。藤井監督は『ムショぼけ』でも、私が尼崎でやりたいという思いが強いのを知っていて、最後までそれを貫いて実現させてくれたんです。今、ドラマの名所としてよく使われている三和市場。これも、それがあったからなんです。今回も三和市場のシャッター通りでの撮影は必須だったと思います。最終的に焼肉屋は藤井監督が「ここでやりましょう!」となって実現しました。あそこは尼崎では有名は、プロ野球選手とかもよく来る店なんです。

木原と三島が初めて出会う尼崎の焼肉店

――沖田さんにとって、尼崎というのは、どんな場所なんですか?

沖田 東京の人とかに言ったら、「尼って怖い……」みたいに渋い顔をされるけど、本当に申し訳ないぐらい治安も悪くなくし、かといって田舎でもない。まぁ、もうどうしようもない町ですよね(苦笑)。

桐谷 なんでちょっと柄が悪いみたいなイメージがついたんですかね。

沖田 大阪人がそう感じて、広めたんやろうな。自分ら兵庫人からしたら、大阪人はもっと柄が悪い(笑)。地域でいったら、大正とか生野とか。メシを食べるにしても、尼崎では普通に食べられますけど、淀川渡って、大阪で食べると店の人が厚かましいなとか。

桐谷 (笑)。感じ方が違うんでしょうね。「あま」って略される感じもなんか怖い。本当に勝手なイメージなんですけど(笑)。

木原というダークヒーローへの自己投影

――最後に、物語も後半に突入して、第6話では「エピソードゼロ」的な回がありますけれども。それを経てのこれからの見どころをお聞かせいただけますか。

桐谷 そういう質問を聞かれると毎回言うのは、「見てくださった、その人の心に残っている部分が、もうその人の見どころなんです」ということ。確かに第6話では、5年前に何があったのかというところも明らかになったり、これから木原と冴木という謎の男との関係性も見どころになってくると思います。登場人物たちが今後どう変わっていくのか。そのきっかけはなんなのか。そういう視点で観ていってもらえてもいいし、何も考えず観てくださってもいい。
 あと、現代人はみんな、過多な情報に縛られたり、同調圧力が強い中で人の目を気にしすぎたりと、いろいろと我慢することが多い社会の中で、木原というダークヒーローは、それを当たり前のように崩して、突破してくれる。みんなの心の中にもそういう人間性はあるはずで、それを木原に投影して楽しんでくれたらうれしいなとも思います。

沖田 自分は最終回の10話が見どころだと言いたいですね。当たり前ですけど、1話から9話までやってきたことの答えがいろいろと出てくる。自然に見てきた流れの中で、最終回で「ああ、こうなっていたんだ」と、すごく感じてもらえる物語になっているし、それを感じてもらいたいなって思っています。

桐谷 一話一話全部に個性や良さがあるんですよね。短い時間なのに、自分はほんまにめっちゃ見入ってしまうんですよね。だからこそ、みなさんもそれぞれ好きな回を見つけていただけたらうれしいです。

すでに小学館からコミカライズも決定。ドラマ、小説、漫画と『インフォーマ』は一気に拡大している。

(構成=サイゾー編集部)

ドラマ『インフォーマ』
毎週木曜深夜0時25分~0時55分放送中(関西ローカル)
見逃し配信:カンテレドーガ・TVer
Netflixでは地上波に先駆けて先行配信中

桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。

小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円
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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!

この記事を書いた人

インフォーマ(原作)公式

ドラマ「インフォーマ」の原作公式アカウントです。圧倒的なリアリティと緊張感あふれるストーリーで話題を呼んだ作品の魅力をお届けします。原作にまつわる情報や制作秘話、最新ニュースなど、ここだけの特別なコンテンツをお楽しみください。