今度は、元極道の情報屋だ! アウトローの世界から作家に転じ、リアリティー迫る世界観とハードボイルドさ、そこに関西人らしいユーモアも交えた独特の作風で人気の小説家・沖田臥竜氏。その沖田氏が新たに書き下ろした小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)が、1月から関西テレビでドラマ化される。総監督・プロデュースをするのは、映画『ヤクザと家族 The Family』とドラマ『ムショぼけ』という、2つの沖田小説を映像化した藤井道人監督。またもや刺激的な作品を世に放つゴールデンコンビが、ドラマ放送に先駆けて、その舞台裏を語り合った――。
韓流を超えるようなアンダーグラウンド作品を目指して
今度の物語は、1年前に放送された刑務所帰りの元ヤクザがシャバの生活に四苦八苦する『ムショぼけ』のソフトタッチとは一線を画している。元ヤクザの情報屋「インフォーマ」と三流週刊誌の若手記者がバディーを組んで、殺人も厭わない闇組織の真相を追うハードボイルドなクライムサスペンスだ。
社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか。日常生活ではお目にかかることのできない世界が、抗争とともにが繰り広げられていく物語となっている。
――沖田さんと藤井さんは、2年間で3回目のタッグを組まれました。今回の企画はいつ、どんな着想からスタートしたのですか?
藤井 去年(2021年)の1月ですね。ちょうど映画『ヤクザと家族 The Family』が公開されて、ドラマ『ムショぼけ』の打ち合わせをしている最中でした。
沖田 ほかのスタッフが帰って二人きりになったときに、藤井さんから「またやりません? 次の小説はもう考えておられますか?」と声を掛けてもらったんです。
藤井 沖田さんはネタをたくさん持っていて、『ムショぼけ』もあっという間に書き上げられていたので、ほかに何か題材はないかなと尋ねました。すぐに「情報屋」の話を出してくださり、「おもしろい、それいけますね!」って、またもや2人で(企画を)雪だるまのようにどんどん大きくしていって、小説→ドラマというプランにまで育てました。
――前二作は沖田さんの実体験も反映されていることが想像できましたが、今回の情報屋のような経験は?
沖田 ほぼそのまま(実体験)ですよ。いわゆるそこ(ヤクザ)から足を洗ってからは、そういう情報を集めることをしていましたよね。それって、すなわち人脈を広げるってことでもあって、それが藤井さんと知り合うきっかけにもなったわけです。
藤井 僕は、沖田さんと出会った当初から「この人はどこからこんな早く色んな情報を仕入れてくるんだろう」って、驚かされていたほどでしたが、親しくなってわかりました。広い人脈を持たれているから、自然と情報が集まっていたんです。そんなことに加えて、僕から沖田さんには「日本では、韓流を超えるようなアンダーグラウンド作品がなかなか撮らせてもらえない。本当は撮りたい」と相談したことが、この作品につながっていきました。
沖田 自分にとっては、目の前の人間を喜ばせることが、小説を書く最初の大きな原動力なんです。今回も、まずは藤井監督におもしろがってもらいたかった。それに、自分の書きたいことにだけに固くこだわるタイプじゃないから、藤井監督と話もしながら「ほんならこんな展開にしてみましょか。こっちには別のことを足してみますか」と、いろいろ変えていった。藤井監督はお世辞を言う人じゃない。ご自分でも脚本を書かれていた人だから、その目は厳しい。そんな人に心から喜んでもらうことって、こっちの自信にもなっていくんですよ。
――藤井監督は、そんな沖田小説を映像化するイメージも抱えて企画を進めていかれました。
藤井 韓国ではバイオレンス作品でも国民的な大ヒットを生むけれど、ドメスティックな空間でテレビドラマを作ってきている日本では、その成功がなされていない。人気漫画の原作ものでヒットを当てることも大切だけど、(表現を)拡張するギャンブルもしていかないといけないと、常々思っていました。(殺人シーンもある)今作が(沖田&藤井コンビの)1発目だとテレビ局からもゴーサインは出なかったかもしれないけれど、先に(ハートフルな)『ムショぼけ』で、各所から良い感触を得られていたことが、大きかったです。
――テレビ界でも沖田&藤井コンビが信頼されたということですね。
藤井 その上で、俳優さんたちが「本が素晴らしいからやりたい」と快諾してくれました。主演の桐谷健太さんも、狂気に満ちた役を演じた森田剛さんも、生き生きと演じてくれました。「やっぱりみんな、こういう作品を求めていたんだ」と実感させられました。
藤井監督は担当編集者みたいなもの」(沖田)
――地上波では関西テレビの深夜連続ドラマ枠で、さらにNetflixで世界配信もされるのですね。
藤井 撮り終えた今、「これは世に届くな」って、確かな感触を持っています。
――故・小坂流加さんの小説『余命10年』のようなヒューマンストーリーの映画でもメガホンを撮ってきた藤井監督にとって、短期間で3回も組んだ沖田さんの小説には、どんな魅力を感じているのですか?
藤井 やっぱり僕ら男の子って、ずっと幼いころからアンダーグラウンドものに憧れを抱いていますよね。そしてご縁ができてから(ヤクザが主人公の恋愛小説)『忘れな草』を読ませていただいて、すごく惹き込まれたんです。『ヤクザと家族とThe Family』の、すごく過酷な現場にも同行してくださって、そこでお互いにリスペクトも生まれました。だから、もはや原作者さんというより、戦友的な共感があるんです。
――原作者と監督の間にそのような絆が生まれるのは非常に珍しいと思います。
沖田 まぁ『ムショぼけ』も『インフォーマー』も、書き始める前から一緒に考えてきたから、藤井監督は自分の担当編集者みたいですわ(笑)。
藤井 沖田さんが執筆している時期は、僕がそんな(編集者の)立場。本が出来上がってドラマの撮影に入ると、監修者として現場に顔を出して意見、アドバイスをしてくださる沖田さんが、逆の立場になってくださる。1つ1つをキャッチボールしていって、元気玉みたいにみんなの力を集結させていった感じです。たしかに、普通の原作者と監督の関係とは、ちょっと違いますね(笑)。作品によっては、原作者さんと会話する機会ももらえないまま監督する仕事もありますから。
――膝を突き合わせてコミュニケーションを取りながら進めていけるのは波長が合うからですね。
沖田 あらゆる面で信頼し合えているからですね。
――ここまで近くなった関係で、逆に制作が難しくなる部分はないのですか?
藤井 沖田さんが本を書いている段階では何もありません。ただ、撮影現場に来ていただくときには、プロデューサーはテンパりますね(笑)。たとえば、ドラマとしてより良く魅せるために、全くの原作通りではないところも出てきます。そんなときは、お互いがクリエイターだからこそ、やっぱり緊張します。沖田さんからは「そこは自由に」と現場の方針を尊重していただくこともあれば、ご意見をいただくこともありました。ただ、そのやりとりは必ず現場に入る前に我々の中で済ませていましたよ。現場であれこれしたら、俳優部が困ってしまいますから。
――沖田さんが、この小説で一番伝えたかったことは何ですか?
沖田 純粋にエンターテインメントとして楽しんでほしかったのが一番。そして、あえて言うならば「世の中には知られてない世界もあんねんで」ってことです。映画『ザ・ファブル』のような殺し屋集団は空想上のものやし、ドラマや小説では多少の脚色は出てくるけども、それでも世の中には「知らん世界」が存在するのも事実やってことをね。インターネットには、しょうもない情報が散らばっているからこそ、公式(小説やドラマといった媒体)の中にそれを差し込んで、エンターテインメントとして評価を得られれば、誇れることになるかなって。
藤井 この世の中を知った気になっている人たちに、ぜひこの小説を読んで、ドラマを見てほしいです。
小説の佳境では、情報屋の木原慶次郎が、週刊誌記者の三島寛治に「世の中クソみたいな情報がぎょうさん出回っとる、そんな情報に踊らされとる奴らも同じクソや…。お前は、お前が見てきたものを信じろ」と語る場面が出てくる。まさに2人からのメッセージなのかもしれない。
(構成=瀬津真也/写真=名和真紀子)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
1976年生まれ。2016年に小説家としてデビュー。以来、事件から政治や芸能、裏社会まで幅広いフィールドを題材に執筆活動を続ける一方、ドラマや映画の監修を手がける。代表作に『死に体』(れんが書房新社)、『ムショぼけ』(小学館文庫)など。
●藤井道人(ふじい・みちひと)
1986年生まれ。2014年に伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』で監督デビュー。『新聞記者』(2019年)では日本アカデミー賞で最優秀賞3部門を含む、6部門受賞。そのほかの監督作品に『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』など。
小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円
amazonでの購入はこちら
週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!
ドラマ『インフォーマ』
2023年1月19日(木)スタート 毎週木曜深夜0時25分~0時55分(関西ローカル)/見逃し配信:カンテレドーガ・TVer/Netflix全世界配信
公式サイト https://www.ktv.jp/informa/
桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。Netflixでの全世界配信も決定。